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Jojo Rabbit ジョジョ・ラビット

アメリカ映画 (2019)

ルーネンズの原作『Caging Skies』を、監督のワイティティが大幅に変えて創作した映画。アカデミー賞で脚色賞を受賞したのは当然と言えるほどの大胆な変更で、ナチズム批判という原作の要素は生かしたまま、暗い小説を、明るくユーモラスな映画に変えるのに成功した。一言で表現すれば、映画では、原作の前半しか使われていない。原作は1938年のウィーンで始まり、戦後の1949年まで続く。その間に主人公のヨハネスは10歳も年をとり、子供から大人になっていく。映画は、ジョジョの住んでいた町がアメリカ軍に支配された後、彼は、壁の中のユダヤの少女エルサに、「僕たち。ドイツが勝った。ごめんね」と嘘を付く。しかし、すぐに反省したジョジョはエルサを解放し、外に出たエルサはジョジョを許し、将来、2人は仲のいい “姉弟” であり続けることを暗示して映画は終わる。しかし、原作では、ドイツが勝ったことにして、ヨハネスはエルサを隠し続ける。何と戦後4年間にわたって。その間には、男女の関係もある。そして、最後に事実を知ったエルサは、ヨハネスを捨てて出て行く。こんなに暗くて陰湿な映画だったら観たくはない。ワイティティが、原作の後半を捨て、ハッピーエンドにしたのは正解だった。因みに、それ以外の小さな違いについても言及しておこう。既に述べたが、原作の舞台はドイツの小さな町ではなく、オーストリアの首都ウィーン。名前はヨハネスと同じだが、ジョジョという愛称は映画だけ。ヨハネスの家には、母だけでなく、父と祖母も住んでいる。最初に父がレジスタンスとして強制収容所送りとなり(死亡)、次いで、映画のように母が死に、戦後になって祖母も死亡する。映画のジョジョはユングフォルクのキャンプで顔と足に負傷するが、原作のヨハネスのケガはもっと後、少年兵になってから、空襲の際に負傷し、顔の半分を麻痺、片腕の一部も失う。映画で、ワイティティ自身が演じた「ジョジョの空想の友アドルフ」は、原作には一切登場しない。アドルフの存在は、映画のコミカル度とナチズム批判を盛り上げるのに一役買っていたので、ワイティティの脚色は冴えている。こうして見てみると、『ジョジョ・ラビット』は、原作に着想を得てワイティティが作り上げた “おかしな悪夢の世界” の映画とみなすことができる。戦時中にもかかわらず、ジョジョの家の中や母の服装は とてもカラフルだ。流れる曲は、1945年には作曲されていなかったポップなものばかり。そして、ナチズムに染まったクローン少年や、最後の突撃の際のあり得ないパーフォーマンスなどの象徴的な描き方。ナチズム批判を、これほど愉快に笑い飛ばした映画は、将来とも出ないであろう。現時点で、143の賞にノミネートされ、31の賞を獲得していることからも、ワイティティの発想が 広く受け入れられたことが分かる。

ジョジョは、ナチが大好きな男の子。空想の友達アドルフは、ヒトラーそっくり。父は2年前に戦死し、姉も同じ頃、恐らく病死し、今は母との2人暮らし。母は、ジョジョとは逆で、反ナチ活動に忙しい。しかし、ジョジョが混乱するといけないので、ジョジョの嗜好には一切口出しをしない。そんなジョジョは、10歳になったので、待ちに待ったナチの少年団ユングフォルクの週末キャンプに初めて参加する。そこで最初に学んだことは、ユダヤ人には、角や牙があり、舌は蛇のように伸び、胸には鱗まであること。しかし、翌日、敵を殺す訓練で、兎の首をねじ切るよう命じられたジョジョは、可哀想で逃がそうとして、落伍者とみなされ、軽蔑を込めて「兎のジョジョ(ジョジョ・ラビット)」と囃し立てられる。恥ずかしくなって逃げたジョジョは、汚名を挽回しようと、他の団員に先んじて手榴弾を投げるが、木に跳ね返って爆発し、顔と足をケガしてしまう。退院したジョジョは、ユングフォルクの雑用係として、ナチの宣伝ポスター貼りをさせられる。ある日帰宅したジョジョが、2階の物音に気付いて姉の部屋を調べに行くと、床に擦り傷があり、その前の壁板をナイフでこじると 中が空洞になっている。そして、中には高校生くらいの年頃の女の子が隠れていた。ユダヤ人のエルサだ。エルサは、ユダヤ人を匿っていると知れると、ジョジョも母も殺されると告げ、密告しないようジョジョに誓わせる。交換条件として、ジョジョは、ユダヤ人についての暴露本を書く手伝いをするようエルサに頼む。その結果、出来上がった「Yoohoo」と題した本は、ジョジョが思い描き、エルサがワル乗りで誇張した “人間とは思えないほど醜悪なユダヤ人の生態” を描いた画帳だった。1945年に入り、戦況の悪化とともに、ジョジョの雑用はポスター貼りから金属回収に変わる。そんな中、ジョジョは母が危険な紙を配って歩いているのを見掛ける。そして、恐らく母の行動に対する「タレコミ」があったため、ゲシュタポがジョジョの家に家宅捜査にやってくる。慌てて隠れようとしたエルサは物音を立ててしまい、ユダヤ人として発見されると大変なことになるので、ジョジョの姉だといって姿を見せる。この危機を救ったのは、「Yoohoo」の過激で奇抜なユダヤ蔑視の内容にゲシュタポが喜んだからだった。その後、ドイツ軍の劣勢は急速に進行し、母は裏切り者としてリンチで絞首刑になり、ジョジョの居住区の近くは連合軍の爆撃で破壊された。そして、遂にアメリカ軍が町に攻め入る。ドイツが負けると、ユダヤ人であるエルサは自由になれるが、エルサのことが好きになっていたジョジョにとって、それは嬉しくない事態だった。家に戻ってエルサから戦況を訊かれたジョジョは、勝ったのはドイツだと嘘を付く。しかし、それでは、永久にエルサを閉じ込めることになるので、嘘をついたことを反省し、エルサを解放する。

タイトル・ロールのジョジョを演じるのはロンドン生まれのローマン・グリフィン・デイビス(Roman Griffin Davis)。 2007年3月5日生まれで、撮影は2018年5月前後なので、撮影時11歳。これが、映画初出演でいきなり主役。ゴールデングローブ賞の主演男優賞は逃したが、計24の賞にノミネートされ、うち7つ受賞している。期待の新星だ。

あらすじ

映画の冒頭、ユングフォルク〔Jungvolkは、ヒトラーユーゲントの10-14歳版〕の制服を身に着けた少年が、鏡に映った自分の向かって言い聞かせるように話す。「ジョジョ・ベッツラー。10歳。今日からユングフォルクの週末特別訓練に参加する。きついだろうけど、今日から男になるんだ。僕らの国の救済者アドルフ・ヒトラーに全身全霊を捧げることを誓う。彼のためなら、命を投げ出すこともいとわない… 神に誓って」。すると、ジョジョの背後に現れた軍服姿の男が、「よろしい。それではジョジョ・ベッツラー、君の心は何だ?」と訊く。ジョジョは、「蛇の心」と応える。「君の体は何だ?」。「狼の体」。「君の勇気は何だ?」。「豹の勇気」(1枚目の写真、一級鉄十字章はヒトラーのシンボル)。「君の魂は何だ?」。「ドイツ人の魂」。「準備ができとるな」。そう言われたジョジョが、「アドルフ?」と話しかける。「うまくできるとは思えない」。その時、男がジョジョの顔の高さまで身をかがめ、「何だと? 無論、できるに決まっとる」と言う(2枚目の写真)。これで、男がアドルフ ・ヒトラーで、当然、本人ではあり得ないので、ジョジョの空想の友であることが分かる。だから、ジョジョにしか姿が見えない〔演じているのは、マオリ系ユダヤ人の監督タイカ・ワイティティ〕。「確かに、君は、やせっぽちで、友達も少ないし、その年になっても靴の紐すら結べん。だが、これまで会ったナチの少年の中で忠誠心は最高で、なおかつ、男前だ。だから、安心して出発し、楽しんでくるがいい」。空想の悪友は、そう鼓舞すると、「ハイル・ヒトラー」と正しく言えるまで何度も練習させる。勇気をもらったジョジョが、家から飛び出したところで、オープニング・クレジットが入る。踊りながら街を歩いていくジョジョのバックに流れるのは、ビートルズの『抱きしめたい』のドイツ語バージョン。映画そのものは、全編英語なので、ドイツ語が目立つ 。
  
  

題名が表示されると、野原に集められた大勢の少年少女に対し、通称K大尉が訓辞を述べる〔後の展開から類推して1944年の夏か初秋〕。ジョジョと 彼の一人しかいない友達のヨーキーは、嬉しそうに話を聞いている(1枚目の写真、ジョジョの右のメガネの少年がヨーキー)。大尉は、自分の右にいる準士官と、左にいる女性教官を紹介した後、戦闘で片目を失明したため この仕事を引き受けたと話し、片目でも銃の腕は “両目” の人より遥かに上手いと言い(2枚目の写真)、曲撃ちを披露する〔完全にコメディ〕。最後に、全員に配布されているナイフを取り出すように促し、大切なものなので肌身離さず携行するよう強く命じる。そして、「男子諸君は、今日、行進、銃剣術、手榴弾投げ、塹壕掘り、地図判読、毒ガス防御、偽装、待ち伏せ、机上作戦、射撃、爆破法について勉強する。女子諸君は、傷の手当、ベッドメイキング、妊娠の仕方という女性の重要な義務について練習する」と締めくくる(3枚目の写真)〔女子の部分は、次の発言と合わせ、戦争への皮肉〕。女性教官が、「私はドイツのために18人の子供を産みました」と述べた後、少年達の実地訓練の様子が紹介されるが、実際にあったとは思えないコミカルなものばかり。この時バックグラウンドに流れるのがトム・ウェイツの『大人になんかなるものか』。訓練の目的と逆行している。
  
  
  

一番笑ってしまうのが、女性教官による「ユダヤ人」の講義。教官は、黒板に描かれた怪物のような人間に、角(つの)、牙(きば)、蛇の舌、最後には胸に鱗(うろこ)まで書き加える(1枚目の写真)。そして、最後に、「アーリア人は、他の人種の千倍も文明的、進歩的なのよ」と付け加える(2枚目の写真)。まさに洗脳だ。この授業が終わると、次は焚書。夜になると、1つ前の節の写真に映っていた多くのテントの1つにジョジョとヨーキーが入っている。草の上にそれぞれが小さな布を敷き、パジャマ姿で横になる。2人とも、支給されたナイフを手にして見ている。ヨーキーが「ユダヤって怖いな」と言うと、ジョジョは「僕は違うぞ。出会ったら、こんな風に殺してやる」と言いながら、ナイフで何度も刺す振りをしてみせる。「だけど、見ただけでどうやって分かるの? 見た目は同じなんだろ?」。「頭に角が生えてる。それに、芽キャベツみたいに臭う」(3枚目の写真)「1人捕まえてヒトラーにあげるんだ。そしたら、護衛隊に入れてもらえること間違いなし。一番の友達になれるかも」。ヨーキーは、「僕が一番だろ?」と抗議する。「ヨーキー、君は二番だ。一番は総統用にとっておかないと」。
  
  
  

翌日、少年達を前に、2人の年長の指導員が立ち、うち1人が、「敵と遭遇したら、息の根を止めろ。できる者は手を上げろ」と訊く。ヨーキーも含めて皆が手を高く上げる中、ジョジョだけは恐る恐る指だけ上げた(1枚目の写真)。「ヒトラーの軍隊には弱虫を入れる余地などない。鍛えられた戦士が必要だ。意のままに殺すことができないといかん。できるか?」。全員が「はい」と言うが、ちょっとためらったジョジョの返事が遅れる。さっきの指先上げと、今の返事遅れから、ジョジョがターゲットにされる。「ヨハネス。殺せるか?」。「もちろん。大好きです」。「よろしい。ここに来い」。ジョジョが前に出ると、もう1人の指導員が兎を渡す。可愛い兎を抱いたジョジョに、最初の指導員は、「首を捩じって、兎を殺せ」と命じる(2枚目の写真)。ジョジョは兎の顔を見る。「怖いのか?」。「怖くありません。ただ、ちょっと…」。「今やれ」。もう1人が、「両手で首をつかみ、思い切り捩じれ。断末魔の声を出したら、ブーツで踏みつけろ」と唆す。ためらうジョジョに、全員が、「殺せ」と何度も唱える中、ジョジョは兎を地面に置いて逃がそうとする(3枚目の写真、矢印は兎)。指導員は、すぐ兎を取り上げると、首の骨を折り、死骸を森の中に投げ捨てる。そして、ジョジョに対し、「この臆病者め。父親そっくりだな」と、軽蔑するように言う。「父さんは臆病じゃない。イタリアで戦ってる」。「ホントか? 2年間、行方不明だぞ。脱走した臆病者だ」。「彼は怖かったんだ。お前もそうだ。小さな兎みたいに怖がりだ」。そう言うと、ジョジョの肩をつかんで地面に押し倒す。そして、ブーツを顔の上に近づけると、「怖がりのチビ兎め。首を折ってやろうか?」と脅し、「兎のジョジョ」(ジョジョ・ラビット)と言ってからかう(4枚目の写真)。ジョジョは、恥ずかしくなって逃げ出すが、その後を、「♪ジョジョ・ラビット」の笑い声が追いかける。
  
  
  
  

ジョジョが森の中で泣いていると、そこに、空想の友が現れる。「可哀想なジョジョ、どうした?」。「やあ、アドルフ」。アドルフは、ジョジョに、兎の顛末を訊く。「殺せって言われた。ごめん。できなかった」。「心配するな。私は、気にせんぞ〔I couldn't care less〕」。「だけど、みんな、僕を 怖がりの兎って呼ぶんだ」。「好きなように呼ばせとけ。私だって、いっぱい嫌なことを言われてる。狂人だとか、サイコだとか、皆殺しにする気だとか。一つ、いいことを教えてやろう。兎は臆病じゃない。つつましいウサちゃんは、家族のニンジンを集めるため、毎日危険な世界に直面している。私の帝国には、いろんな動物がいる。ライオン、キリン、シマウマ、サイ、タコ…」。そう話した後で、アドルフは、「兎になれ。つつましい兎は、すべての敵を出し抜くことができる」(1枚目の写真)「兎は、勇敢で、ずる賢く、強い。だから、兎になれ」とアドバイスする。そこに、ジョジョを心配したヨーキーがやってくる。ジョジョは、アドルフの忠告に従い、「ナナフシ〔竹節虫〕どもに、誰がホントに臆病な兎なのか 分からせてやる」と大見得を切ると、「兎になれ!」と叫びながら、元いた場所に向かって走り出す。アドルフも一緒だ。先ほどの場所では、K大尉が少年達に手榴弾を投げて見せ、最初に投げる者を募る。誰も手を上げない。そこに、叫びながらジョジョが突入し、大尉が手に持っていた手榴弾を奪う(2枚目の写真、矢印は手榴弾。左でジャンプしているのは、誰にも見えないアドルフ)。ジョジョは、森の中に入って行くと、ピンを引き抜いて投げる。しかし、手榴弾は木の幹に当たって跳ね返り、ジョジョの足元に落ちる。手榴弾は爆発し、ジョジョは吹き飛ばされる(3枚目の写真、矢印はジョジョ)。ジョジョは、救急車で病院に搬送される。
  
  
  

救急搬送されるジョジョの目から見たぼやけた映像の後は、退院して家に戻ったジョジョが絨毯の上を 左足を引きずって歩くシーンに変わる。ジョジョの右顔はどこにも傷がないが、正面を向くと左側の額から頬にかけて傷を縫合した跡がくっきりついている。ジョジョは、鏡の前で、退院してから初めて見る自分の顔を見ながら、傷に触れてみる。まだ痛い。そう思った瞬間、背後から「坊や」と母が呼びかける。ジョジョは、寄ってきた母の胸に抱きつく。母は、「可愛い坊や」と言いながらジョジョの顔を見るが、ジョジョは、「なぜ嬉しそうなの? 息子が怪物みたいに醜くなったのに」と訊く(1枚目の写真)。母は、「どこが怪物なの? 顔の傷は治るし、足だって普通に歩けるようになるわ」と慰める(2枚目の写真)。そして、「あなたが、家にずっといられて嬉しいわ。パパが家にいないから 一層心配なの」と付け加える。ジョジョ:「お姉ちゃんのインガもいないしね」。それから、しばらく経って、ジョジョの靴紐を母が結んでいる〔空想のアドルフが、「その年になっても靴の紐すら結べん」と指摘した〕。母は、靴紐の結び方を、「兎のしっぽをつかんで、耳に巻き付ける。しっぽを縛ったら、兎を穴に押し戻す」と教える(3枚目の写真、矢印は靴紐)。ジョジョに靴を履かせたのは、外出するため。母の考えでは、その方が回復が早くなるから。ただ、ジョジョは、「バカみたいに見え、じろじろ見られる」と、外に出るのを嫌がる。母は、「注目されるのを楽しみなさい。バカみたいに見える幸運なんて滅多にないのよ」 と宥(なだ)める。
  
  
  

母子の向かった先は、町の中心の建物に入っているヒトラーユーゲントの事務所。そこにいたのはユングフォルクの週末特別訓練の時のK大尉と 準士官と女性教官。下着のシャツの上から乱雑に軍服をはおっただけの大尉が、「ベッツラー夫人、いつもながら魅力ですね」と言いながら寄って行くと、ジョジョの母はいきなり大尉の陰部を膝で上げ、大尉は痛くて絨毯の上に倒れ込む(1枚目の写真、矢印はジョジョ)。「息子がまともに歩けなくなったことと、顔を台無しにされたお礼よ」。これが本当のドイツ将校だったら、ジョジョの母は即座に処罰されていたであろうが、コメディなので、大尉は、「あの子が、勝手に手榴弾を取り上げて…」と状況説明を始める。すると、ジョジョの母は、手袋を持った手で大尉の顔を引っ叩く。そして、「じゃあ、私が仕事に出かけてる間、あの子の面倒を見るわね?」と日中の “子守” を押し付ける。大尉は、痛くて立ち上がれないまま了承する。大尉は、準士官と女性教官に、「諸君、あれがヨハネス・ベッツラー、前に話した子だ。私の手から手榴弾をかすめ取り、吹き飛んだ挙句、過失により 私を降職させた張本人だ」とジョジョを紹介する〔肩章から、大尉であることに変わりはない〕。大尉は、女性教官にジョジョのできる仕事を列挙させる。①クローン化(2枚目の写真、子供の顔がみな同じ⇒クローン人間)〔ユングフォルクで洗脳されたナチの少年はクローン人間と同じ、という強烈な皮肉〕、②宣伝ポスター貼り、③招集令状配り。3つを聞いたジョジョは(3枚目の写真)、②を選ぶ。
  
  
  

ジョジョが貼ったポスターは、「我々は勝利を確信する」「自らの家は、自ら守れ」「総統万歳/忠誠は栄誉」などなど。ジョジョがポスターを貼っていると(1枚目の写真)、広場に母が立って 何かを見ている。ジョジョは母の横に行って一緒に見つめる(2枚目の写真)。2人の目の前には、木の枠が作ってあり、そこに5人の男女が “見せしめ” に首を吊られて放置されていた。真ん中の柱には、「私達は、ドイツ国民に危害を加えました」と、罪人が自ら罪を認めたような掲示が出されている〔反ナチ行動をとったドイツ人を処刑したもの〕。このシーンの中で、男性のスボンが大写しになり、そこには、「ドイツに自由を - ナチ党と戦おう」と赤字で書かれた細長い紙が留められている。ジョジョが、「あの人たち、何をしたの?」と尋ねると、母は、「自分達で できることを」と答える〔この処刑のやり方は、軍によるものではなく、親ナチ派の市民によるリンチだと思われる/ジョジョの母は反ナチ派〕
  
  
  

ある日、ジョジョがポスター貼りを終えて家に帰ってきて、「ママ、帰ったよ」と甘えるように声をかけると(1枚目の写真)、返事がない代わりに、2階で物音がする。不審に思ったジョジョは、びっこをひきながら階段を上り、母の寝室を覗くが誰もいない。そこで、姉のインガが使っていた部屋に入って行き、懐かしい品々に手を触れてみる。すると、床の木に傷がついているのが目に入る。傷の具合から、壁板がズレで開いたような感じがするので、ジョジョは、ユングフォルクのナイフを取り出し、壁板が動かないか調べてみる(2枚目の写真、矢印はナイフ)。ナイフでこじると、壁板が外れて開き、壁の向こうに空間がある。ジョジョは、懐中電灯〔戦前に使われていた形式〕 を取り出して中に入って行く〔壁の中の空間は、幅約1メートル、奥行きは部屋の大きさと同じ〕。空間の高さは腰壁までしかないので、ジョジョは四つん這いになり、懐中電灯以外は真っ暗な中へ、恐る恐る這い進む。すると、少女の顔が光に浮かび上がる(3枚目の写真)。ジョジョは、悲鳴を上げ、壁の中から全速で逃げ出す。彼がインガのベッドにもたれて恐怖におののいていると、壁板から手が伸びてきたので、部屋を飛び出し、階段まで行ったところで、転倒して1階まで転がり落ちる。
  
  
  

1階の壁に背中をつけた格好で座り込んだジョジョが、階段を見ていると、階段の上部の手摺を、人差し指と中指を交互に動かし、手が歩いて降りてくる(1枚目の写真、何かの恐怖映画で見たような…)。ジョジョは恐怖で動けない。そのうち、少女の全身が現われる。ジョジョは 幽霊に違いないと思う。「何が欲しい? 幽霊だろ?」。少女は、不気味そうに微笑み、「幽霊よ」と答える。ジョジョは、気力を振り絞って立ち上がると、玄関に向かって走る。しかし、少女の方が速く、肩をつかまれ、壁に押し付けられる。「走らせるんじゃないよ、このガキ。こっちは腹が空いてんだ。我々が、血の味を好むことくらい知ってるよな?」と、怪物のような口調でジョジョを脅す。ジョジョがナイフを使おうとすると、既に相手の手に握られていた。少女は、ナイフをジョジョに向け、自分が “恐ろしいユダヤ” だと悟らせる。ジョジョ:「ここに、いることなんかできない」。「私は、あんたの母さんに招かれたお客さんなの」。「許されないよ」。「どうする気、ヒトラー坊や?」。ジョジョは、横に置いてある電話機を見る。「ほら、取って 話しなさいよ。だけど、そうしたらどうなるか知ってる? あんたが、私を助けたって話すわ。あんたの母さんもね。そしたら、全員 お陀仏。それに、あんたが、このこと一言でも母さんに言ったら」(2枚目の写真、矢印はジョジョのナイフ)「そのナチ頭、切り落としてあげるから」と言って、ジョジョの首にナイフを当てる。100%恐怖の虜になったジョジョは、言われた通りにすると約束する。しかも、ナイフは返してもらえない。解放されたジョジョは、1階にある自分の部屋に逃げ込む。そこには、空想の友アドルフがいて、「強烈だったな」と言う。「他にどうしたら?」。「正直言って分からん。壁の中にまだ何百人もいるかもしれん。なんで、思う通りにされた?」。「きっと、マインド・コントロールを使ったんだ」〔“クローン” に次いで、現代用語が平気で使われるところが面白い〕。「大事なナイフも取り上げられたな?」。「そう、ナイフもだよ!」(3枚目の写真)。2人は、“ジェシー・オーエンス〔現代のカール・ルイス〕” と “切り裂きジャック” の資質を持った女性に対し、次の一手をどうするか考える。
  
  
  

その結果、ジョジョは、台所にあったもので “武装” して、壁の前で身構える(1枚目の写真、矢印は包丁)。壁をノックして、「お邪魔します」と言うところが、可愛い。「お嬢さん? 壁の中のユダヤの女の子? ユフー〔Yoohoo〕、ユダヤ?」。返事がないので、「分かった。言うべきことを言いに来たんだ。僕は、君なんか怖くないし、君は、どこか他で住処を見つけるべきだ。OK?」と宣言する。すると、ジョジョの背後からいきなり現れた少女が、ジョジョ顔の真横で、「Not OK」と返事をする。ジョジョは、度肝を抜かれて悲鳴を上げ、少女に壁に叩きつけられ、落とした包丁を奪われる。少女は、包丁を手に取ると、「私の部屋から出ておいき」と脅し(2枚目の写真、矢印は包丁)、ジョジョは必死に這って出て行く。自分の部屋に戻ったジョジョに、アドルフは、「何て失礼な奴だ。ナイフを2つも奪いおって。どうやって、あいつを切り刻むつもりだ?」と叱咤する。「分かんない。何か考えてよ」(3枚目の写真)。アドルフは、考える中で、この映画の年代を確定する重要な言葉を口にする。「去年、一本腕の海賊フォン・シュタウフェンベルクの奴が、時限爆弾で私を吹き飛ばそうとしたのを覚えとるか?」〔フォン・シュタウフェンベルクは伯爵、参謀大佐。1944年7月20日に「ヴァルキューレ作戦」でヒトラーの暗殺を計画した中心人物(現在は、英雄視されている)。一本腕というのはオーバーで、爆撃による重傷で 右手を失った(左目、左手の薬指と小指も)/この暗殺未遂を “去年” と言っているので、映画の舞台は1945年1月(ドイツは、占領地と同盟国のほとんどを失っている。ヒトラーの自殺は4月30日)/ジョジョがケガをしてから半年経つがちっとも良くなっていないのは変/1月なのに広場には雪がなくて夏のよう〕。アドルフは、暗殺されかけた時、仲間をあぶり出そうと、自分が死んだと思わせたことを例にあげ、「奴を安心させろ。そうすれば、ガードを下げる。そしたら、逆に操ってやれ」と示唆する。「リバース・サイコロジーだね」〔ここでも、現代用語〕
  
  
  

恐らく翌日、ジョジョがプールで泳いだ後、プールサイドに置かれたストレッチ用の台に乗せられたジョジョが、女性教官によって左足を後ろにそり上げられる(1枚目の写真)。あまりに痛いので、顔を真っ赤にして堪(こら)える。それまで一緒にいた母が、先に帰っていく。その時、母の履いている赤と白のハイヒールが大写しになるのは、後で、その特徴ある靴が 母の物だと観客に覚えておかせるため。母が去った後、ジョジョは、プールサイドの壁の窪みに座っている大尉と準士官に寄って行き、「やあ、K大尉さん」と声をかける。「これはこれは、手榴弾君じゃないか。足の具合は?」。「かなり良くなったよ。もう80%しか痛くない。ここで 何してるの?」(2枚目の写真)〔2人はゲイ同志という、ナチにはあり得ない設定〕。返事は、ユングフォルクの少年達に水中戦を教えるとかで、10名以上の少年がフル装備のままプールに飛び込む〔これも、皮肉?〕。ジョジョは、「ユダヤについて訊いてもいい?」と質問する。「何でだ?」。「もし見つけたら、どうすればいいの?」。「見つけたら、我々に知らせろ。そしたら、ゲシュタポに連絡する。彼らは親衛隊に知らせ、親衛隊がユダヤ人を殺す。ユダヤ人を匿っていた奴もな。今はピリピリした時期だから、念のため、周りの連中もだろう」(3枚目の写真、ジョジョの額が赤いのは、母が別れ際につけたキスマーク)。ジョジョは、「ユダヤ人に催眠術をかけられてやったとしても?」と尋ねる。「そんなことはあり得ん」。その時、女性教官が、「いいえ、あり得るわ」と言って、伯父がアルコール依存のギャンブル狂になった挙句、女性教官の妹と不倫し、溺れて死んだのはユダヤ人の催眠術にかかったからだと話す。そして、ジョジョに、「ユダヤ人を見つけたの?」と訊く。「ユダヤ人かどうか分からないよ」。大尉は「確かにな。あの変な帽子〔キッパ〕を被ってなきゃ、見分けることはできん。誰かが、本を書くべきなんだ」と言い、これがジョジョに大きな目標を与える。
  
  
  

プールから帰ったジョジョは、包丁まで取られたのでレードルを持ってインガの部屋に行くと、壁を叩いて大急ぎでドアまで戻り、様子を伺う(1枚目の写真、矢印はレードル)。そして、姿を見せた少女に、①少女の存在をドイツ軍に知らせると、ジョジョと母も巻き添えを食う、②少女の存在を母に打ち明けると、ジョジョの頭が切り落とされる、のは望まないので、置いてやる代わりに、「ユダヤ人種について、すべてを話すんだ」と、条件を提示する。少女はOKする。ジョジョは、ノートを開き、「秘密をすべてさらけ出すんだ。さあ、始めて」と命令する(2枚目の写真)。少女は、ジョジョの期待に添うように、話をでっち上げる。「私たちは、お金が大好きな悪魔なの。そうよね?」。「確かに、みんなも知ってることだ」。「だけど、これは知らないでしょ。私たちには、食物アレルギーがあって、チーズ、パン、お肉を食べると、すぐに死んじゃうの。だから、私を殺したいと思ったら、これが一番てっとり早いわね。そうそう、ビスケットも致死よ」〔お腹が空いている〕。「面白いな。だけど、食べ物なんかほとんどないんだ」。そのあと、ジョジョは、「ユダヤは、まともな人間じゃない。君らはまつ毛みたいに弱い。僕は、アーリア人の血統で、血はバラのように赤く、目は青い」と自慢するが、少女に近づいた瞬間、180度回転させられて、背中から羽交い絞めにされる。「抜け出してみなさいよ、お偉いアーリア人とやら。ユダヤ人は弱くない。天使と戦い〔ヤコブ〕、巨人を殺した〔ダビデ〕のよ。私たちは、神に選ばれた民(たみ)なの。満足に口髭も生やせない哀れなチビ〔ヒトラー〕に選ばれたあんたたちと違ってね」(3枚目の写真)。それだけ言うと、少女は、ジョジョをインガのベッドに投げ飛ばし、壁の中に消えた。
  
  
  

アドルフに顛末を訊かれたジョジョは、恥ずかしいので、「彼女、僕と話したくないみたい。本を書くのは難しそう」と打ち明ける。そこに、母が帰宅する。誰にも見られていないと思った母は、早足で暖炉まで行くと、手に持っていた紙切れに火を点けて燃やす(1枚目の写真、矢印)。夕食の時間となり、ジョジョは、母がすごく嬉しそうな様子なことに不信感を抱く。「なにが、そんなに嬉しいの?」(2枚目の写真)。「進展があったの。連合軍がイタリアを奪った。次はフランスね。もうすぐ戦争は終わる」〔イタリアの枢軸軍が連合国に降伏した4月25日を指すのだろうか? ヒトラーの自殺は5日後の4月30日。フランスのほぼ全土の解放は、1944年12月なので、この言葉に歴史的裏付けはない〕。ジョジョは、「なんで、それが嬉しいの? そんなにドイツが嫌いなの?」と怒る。「ドイツは好きよ。嫌いなのは戦争。無意味でバカげてる」。「戦争なら、敵をやっつければ終わるよ!」。「政治の話はなし。夕食のテーブルは中立地帯よ」。ジョジョは、量の少ないスープを飲み始める。母は、ワインを飲むだけで、パンに手をつけようとしない。ジョジョは、さっきの少女が言ったことは信じていないので、これは母がユダヤにパンをやる気だと思い、邪魔してやろうと、「今夜はすごく お腹が空いてるから、ママの分も食べるよ」と言い、パンにかぶりつく(3枚目の写真)。
  
  
  

ジョジョは、母から、「今日は、どうだった?」と訊かれ、「生きていても仕方のない奇形の子ができるのは、うろつき回ることだけ」と自嘲気味に答える。「奇形じゃないわ」。「僕の顔は、街路マップと同じだよ。ママには分からない。パパがここにいたら、分かってくれる」。母は、父が残していった軍服をはおると〔階級章から判断すると少尉〕、暖炉の灰を頬になすりつける。そして、如何にも父親のように、拳でテーブルをドンと叩くと、「お母さんに、二度とそんな口を聞くな!」と一喝する。そのあとは、暖炉の前で、父と母の会話を交互に演じ、最後は、テーブルに戻り、父に戻って「悪かった」と、怒鳴ったことを謝る(1枚目の写真、矢印は暖炉の灰の髭)。「ジョジョ、お前が寂しいのは分かる。だが、私は世界を変えようとしている最中だ。私がいない間、ロージー〔母〕の面倒を見て欲しい。できるな?」。「うん、パパ」。「ありがとう。彼女も、精一杯 頑張ってる」(2枚目の写真)。母は、昔、2人で踊った時のシーンを再現する。そして、ジョジョをイスに立たせ、ダンスの相手をさせる(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、ジョジョは、床に紙と鉛筆を置くと、壁を叩き、反対側の壁の前のイスに座る。少女が出て来ると、「ユダヤ人の棲み処(すみか)の絵を描いて欲しい。君たちみんなが食べたり、寝たり、女王ユダヤが産卵する場所だよ」と頼む(1枚目の写真)。少女は、ジョジョの発想に、「あんた、ホントのバカなのね」と呆れる。家族の話もしろと言われると、少女は、「ユダヤの話はするけど、私の家族のことを知る権利はないわ」と断った上で、「なぜ私にまとわりつくの? 友達はいないの?」と訊く。「いるさ、ヨーキーだ。君は、誰もいないだろ?」。「ネイサンがいるわ」。「それ誰?」。「フィアンセよ」。「どこにいるの?」。「レジスタンスで戦ってる」。そう言うと、ペンダントトップの写真を見せる。そして、求婚された時にリルケの詩を詠まれたと話す。「リルケって?」。「偉大な詩人。ネイサンのお気に入り。私をここから助け出したらパリで一緒に暮らすの」。「ドイツに背を向けるの?」(2枚目の写真)。「私に背を向けたでしょ」。「ドイツは君なんか要らない。君とバカなボーイフレンドは さっさと出てって、チーズとカタツムリとバゲット〔フランスパン〕の国で暮らすがいい」。「あんたには、ガールフレンドもいないもんね」。「そんな暇なんかない」。「いつかできるわ。意中の人が。出会って夢のような時を過ごし、抱きしめ合う。それが愛よ」。「バカらしい」。「終わったわ」。少女は描いた絵をジョジョに渡す。それは、ユダヤ人の棲み処の絵ではなく、「バカ頭」と題されたジョジョの顔の絵だった(3枚目の写真)。
  
  
  

ジョジョは、さっそく図書館に行き、リルケの詩集を捜し出すと、館内のテーブルに座って手紙を書き始める(1枚目の写真)。そして、家に戻ると、ネイサンからの古い手紙を偶然見つけたと言って、読み始める(2枚目の写真)。「エルサへ。言いにくいことだけど、君と結婚する気はなくなった。新しい女性を見つけ、お互い愛し合ってる。ディープキスもした。お気に入りのリルケも言っているだろ。「愛を確かめるには、一度別れてみるんだ」って。だから、さようなら。別れてごめん。ネイサンから、元フィアンセへ。追伸。僕は、レジスタンスじゃない。嘘をついてた。無職で太ってしまった〔リルケの詩は、「一度別れてみるんだ」の後、「楽に我慢できるようなら…」と続くが、その部分は無視している〕。それを聞いたエルサは、何も言わずに壁の中に入ってしまう。悪いことをしたと後悔したジョジョは、もう一度図書館に行き、2通目の手紙を書く。そして、壁の前に行くと、2通目の手紙を忘れていたと言い、読み上げる(3枚目の写真)。「エルサへ。今や、君と別れる気などなくなったと、知っておいて欲しい。僕のせいで 君に自殺して欲しくないから、気を変えた。それに、過去に数人の女性と付き合ったが、今でもそれがストレスになっている。君に生きていて欲しい。有難いことに、君は、年齢の割に優れた勇気ある少年の世話を受けている。僕は、ホントに無職で、自慢できる点はないけど、いつか結婚しよう。ネイサンより」。壁の中で聞いていたエルサは、ネイサンが知っているハズのない少年云々のところで、思わず微笑んでしまう。そして、読み終わると、壁を開け、部屋に出て来る。そのあと、2人は、ドイツ人とユダヤ人の有名人の名前を出し合う。「ベートーベン」。「アインシュタイン」。「バッハ」。「ガーシュウィン」。「ブラームス、ワグナー、モーツアルト」。「作曲家だけ?」。「リルケ」。「リルケのお母さんはユダヤ人よ」〔正確には、混血度の低いユダヤ系というだけ〕。「ディートリヒ〔女優の〕」。「フーディーニ」。「まさか、そんな!」。「信じなさない。ピサロ、モディリアーニ、マン・レイ、ガートルード・スタイン、モーゼ、イエス・キリスト」。勝てそうにないジョジョは、「うんざりした」と言って部屋を出て行こうとする。エルサは、「他にも手紙を見つけたら、教えてね」と頼む。「もちろん。いいよ。バイ」。2人は、もう友達になっている。
  
  
  

次のシーンは、ジョジョと母が、川を横断する変わった構造物の脇の大きな階段のところで話し合っている〔調べてみたら、メルニーク・ヴラニャニ運河のホジーン閘門(1905年)だと分かった/1945年1月頃のハズなのに全く冬らしくない〕。母は、この河辺は、昔、恋人達が踊ったり歌ったりするロマンスの場所だったと話す。ジョジョは、「ロマンスの時間なんてない。戦争してるんだ!」と反論する。「ロマンスは、時を選ばない。あなたもいつか、特別な人と出会うわ」。「なぜ、みんなが そんなこと僕に言うの?」。「他に誰が?」。エルサとは言えないので、ジョジョは「みんな」と答え、「どっちみち、バカげてるよ」と、エルサに言ったように付け加える。エルサと違い、母は、「バカはあなたよ。愛ほど強いものは、この世にないの」と批判する。「一番強いものは金属だと思うな」(1枚目の写真)「その次がダイナマイト、次が筋肉」。川沿いの遊歩道のシーン。母は、「10歳の子が、戦争を賛歌したり、政治について話すのは間違ってる。木に登って遊ばなきゃ」と言う。「でも、総統は言ってるよ。僕らが勝利したら、世界を仕切るのは僕たち若者だって」(2枚目の写真)。「帝国は瀕死の状態。じき、戦争に負ける。そしてら どうする気? 生きてることは贈り物。もっとお祝いしないと」。母は、擁壁の上で軽く踊ってみせる。ジョジョは「僕は踊らない。ダンスは仕事のない人がするものだ」と反対する。「ダンスは自由な人々のものよ」。その答えに納得できないジョジョは、自転車に乗って家に向かう。母は、すぐに追いかける。2人は、仲良く田舎道を自転車で進む。この時流れる軽快な曲が、ロイ・オービソンの『ママ』のドイツ語バージョン。2人の横を 静かに追い抜いていくのは、外傷を負った兵士を乗せたトラック。戦況の悪さを初めて実感できるシーンだ〔真冬とは思えない〕
  
  
  

家に戻ったジョジョは、壁をノックし、「今日は、ネイサンからの連絡はないよ。きっと、本でも読んでるのか、あごひげでも生やしてるんだ」と投げやりに言い、イスに元気なく座り込む。壁から姿を見せたエルサは、ジョジョを元気付けようと、「ユダヤ人について聞きたくない?」と誘いかける。「どうでもいいや」。しかし、エルサが、「昔々、私たちは洞窟に住んでたの。地球の中心近くのね」と話し始めると、ジョジョは興味をそそられ、画帳を広げる。「そこは恐ろしい場所で、奇妙で驚くような生き物で一杯だったのよ。共通点が一つだけあって…」。「割礼されてた」。「違うわ、バカね。芸術への愛よ」。「割礼はなし?」。「話を聞きたいの? 聞きたくないの?」。「続けてよ。だけど、割礼は事実だよ。ラバイは、ちょん切った先端を耳栓に使ってる」(1枚目の写真)。「時が経ち、魔法と呪文が発達すると、私たちは洞窟を出て町に住むようになった。でも、何人かは、動物の姿で洞窟に残ったの」と言い、画帳に絵を描く。その時、ジョジョの目は、絵でなくエルサに向けられている(2枚目の写真)。エルサが描いた絵は、「動物」とは違い、美しい女性の姿。「角はどこにあるの?」。「髪の下」。「君のは?」。「21になるまで生えないの」。この答えにジョジョは納得する。エルサの話は、どんどんエスカレートしていく。①寝る時は、蝙蝠のように天井からぶら下がる、②お互いの心を読むことができるが、ドイツ人は頭蓋骨が厚過ぎてダメ、③クリスタルや金のようにピカピカ光るものが好き。ジョジョは、それを満足そうに画帳に書いていく。「でも、醜いものも大好きなんだよね? 学校で習ったよ」。エルサは、怒って姿を消してしまう。困ったジョジョが自分の部屋に行くと、アドルフが待っていた。「君たち2人、仲良くやってるようだな」。「生かそうとしてるだけだよ」。「どうでもいいだろ?」。「僕の家で、死人を出したくない。出てもいいの?」。「いいぞ。死人がゴロゴロは大好きだ。君たちが話してるのを見るのは、私にとって極めて不愉快だ」。ジョジョは、本のためだと弁解する。アドルフは、エルサが、ジョジョの心に入り込んで支配しようとしていると、強く警告する(3枚目の写真)。
  
  
  

K大尉のいるヒトラーユーゲントの事務所は、敵襲に備えて騒がしくなっている。そこに顔を出したジョジョを見つけた大尉は、親しげに肩を組み、「どうした?」と訊く。ジョジョは、「ユダヤ人を通報したら、メダルでも もらえるの?」と訊く。「ユダヤか… 君はまだ奴らにこだわってるのか? 今は、差し迫った危機の準備に忙しいんだ」(1枚目の写真)。それでも、ジョジョは、「僕は、ユダヤ人についていっぱい学んだよ」と話し始める。「ユダヤ人が、お互い心を読めるって知ってた?」(2枚目の写真)「寝る時は、蝙蝠みたいに 天井からぶら下がるんだ」。「それは、魅力的だな。どこで、そんな情報を?」。「研究だよ。本を書いてるんだ」。「おめでとう。題名は?」。「『Yoohoo ユダヤ』。暴露本なんだ」〔Yahooをもじった?〕。それを聞いた大尉は笑い出す。そして、「君は、想像力が豊かだな」と褒める。「ホントだよ」。「もちろん、そうだろうとも。私も、君の年頃には、コニーという名の空想の友がいた」。そう言うと、大尉はジョジョを自分の机の横に座らせ、自分流にデザインし直した ど派手な軍服の絵を見せる(3枚目の写真)。
  
  
  

そのあと、ジョジョが送り出されたのが、戦争用に不足している金属の回収。ジョジョは、如何にもユーモラスかつ現代的なロボットの格好をして、なべ・かま類の回収をすべく、リヤカーを牽いて町を歩いている(1枚目の写真)。掛け声は、「ヒトラーのために金属を」。こうした金属回収は、姿は別として、実際に行われていたようで、右の写真は戦時中のもの。ジョジョが歩いていると、ロボットの狭い “目” の穴から、母が紙切れを配って歩いている姿が見える(2枚目の写真)。母が何をやっているのか知りたくなったジョジョは、母が置いていった紙切れを手に取って眺めてみる(3枚目の写真)。そこには、「ドイツに自由を - ナチ党と戦おう」と赤字で印刷されていた。以前、広場で処刑された男性のズボンに貼り付いていた紙と同じものだ(上の写真)。母は、反ナチ活動に従事していた!
  
  
  

家に帰ったジョジョは、大尉の机の上から掠め取ってきた色鉛筆を数本エルサに渡す。エルサは、「あんたの絵を、もう一度描くわ」と言うが、ジョジョは、「誰も欠陥品の絵なんか見たくないよ」と自棄的に言う。エルサは、「欠陥品じゃないわ」と否定する(1枚目の写真)。「それに、真の芸術家はモノなんか見ないもの」。「めくらの芸術家ってことだろ。いいさ。僕は、“女の子が絶対にキスしたがらない奴” だってこと認めるよ」(2枚目の写真)。「そんなことないわ。私にキスして欲しい?」。ジョジョは、“呆れた” といった顔でエルサを見ると、立ち上がり、「いい? 2つある。1つ目。ナチとユダヤがこうやって一緒にいることは違法だし、もちろんキスなんてもっての他だ。2つ目。同情のキスは、数に入らない」(3枚目の写真)。「あんたはナチじゃない。かぎ十字が好きで、おかしな制服を着ることが好きな10歳の男の子だけど、ナチの一員じゃない」。「意見の違いってことにしとこう」。「ナチじゃない」。そのあと、あまりに汚い自分の顔を見たエルサは、お風呂に入る。ドアの入口で見張りに立ったジョジョのお腹の中で、きれいなチョウチョが舞っているシーンは、幼いなりに、ジョジョの心がエルサに傾きかけていることをストレートに示している。
  
  
  

平和なムードは、玄関のドアを強くノックする音で、掻き消される。母以外に誰も来ないハズの家に、好ましくない誰かがやって来たのだ。ジョジョは、エルサに2階に隠れるよう急き立てる。そして、自分は玄関に向かう。ドアを開けると、そこには、黒い服を着た5人の男が立っていた。そして、「ハイル・ヒトラー」と手を上げる(1枚目の写真)。真ん中に立っている背の高い男は、ゲシュタポの大尉。そして、家に入るとすぐに、部下が徹底的な家探しを始めるが、母は 余ったプロパガンダの紙を暖炉で燃やすくらい用心深いので、証拠物件は何も出て来ない。その時、ゲシュタポの手入れを察知したK大尉が、「自転車がパンクしてね」と言って入ってくる(2枚目の写真)。ゲシュタポ大尉は、K大尉に、タレコミがあったのでルーチンワークの捜査に来ただけだと説明する。ジョジョの部屋に入ったゲシュタポ大尉は、ナチズム一色に染まった部屋の内装を見て感心する。そして、「君や君の友達は、ヒトラー総統が睾丸を1つしか持っておられないという噂を聞いたかもしれんが、それは全くのでたらめだ。総統は4つお持ちだ」と話す〔10歳の子供相手に変な話題だが、「ヒトラーのキンタマは1つだけ」という歌は、イギリス軍兵士の間で広まったもの。ドイツ人が知っているとは思えない〕。ジョジョがヒトラーユーゲントの事務所で働いていることが分かった段階で、捜査は無事終了すると思われた時、誰もいないハズの2階でかなり大きな音がする(3枚目の写真)。
  
  
  

調査の主体は2階に移る。「お母さんはどこにいるか知ってるか?」。「ううん。町だと思うけど」。「家にはいつもいるのかね?」。「いつも忙しくしてる」〔タレコミの容疑は、恐らく反ナチ活動家であって、ユダヤ人の隠匿ではない〕。ここで、大尉の疑惑が他の点に移る。「君がユーゲントの制服を着ているのは感心だが、ナイフはどこだ? 肌身離さず携行すべき物だぞ。どこにやった?」。その難局を救おうと、エルサが自分を犠牲にして、「ここよ」と名乗りを上げる(1枚目の写真、矢印はナイフ)。「君は誰だ?」。「あなたこそ誰なの? 私の家で何してるの?」。「ここに住んでるのか?」。「姉のインガよ」。「君にお姉さんがいたとは知らなかったな、ヨハネス」。「私がいない方がいいって、時々思ってたのよね。そうでしょ、チビ・フランケンシュタイン?」。「醜い奇形をことさら論(あげつら)うのは感心したことじゃない〔「醜い奇形」の方が、よほどひどい〕。ところで、なぜ彼のナイフを持っているのかね?」。「弟が入ってこないよう、私の部屋を守るためよ」。「何か隠したいものでも?」。「女の子なら、誰にでもあるでしょ」。インガの部屋で、K大尉は、身分証の提示を要求する。エルサは、疑われる前にインガの身分証を見つけ出し、K大尉に渡す。受け取ったK大尉は、身分証を見ながら、「この写真は何歳の時に撮ったのかね?」と訊く。「3年前、14歳の時です」〔身分証の発行日は、1941年1月8日。誕生日は1928年5月7日なので、14歳ではなく12歳になるし、映画の時点は1945年1~2月なので、4年前の発行となり、「3年前」も間違い〕。「誕生日は?」(2枚目の写真)。「1929年5月1日です」〔先に述べたように、1928年5月7日なので、年と日の両方が間違っている〕身分証とは全く別の人間であることは明らかなのに、ジョジョが気に入っているK大尉は、「その通りだ。ありがとう、インガ」と言う。次にゲシュタポが問題にしたのは、「Yoohoo ユダヤ」と書かれた画帳(右の写真)。「誰が作ったんだ?」。「僕」。エルサが、「ユダヤ人の暴露本。彼らが、どう考え、どう振舞うかを書いたもので、総統への贈り物よ」と口添えする。画帳を開いたゲシュタポ大尉は、ユダヤ人を化け物のように描いた奇抜な絵に大満足(3枚目の写真)。これで、これ以上の詮索は免除された。ゲシュタポが引き揚げた後で、K大尉は、「会えてよかった、インガ」と言い、エルサに身分証を返す。そして、棚の上に置かれたナイフを取り上げると、部屋の出口にいたジョジョに、「家にいろ。家族を世話し、ナイフを大切にな」と言ってナイフを渡し(4枚目の写真、矢印はナイフの柄)、出て行く。
  
  
  
  

誰もいなくなった後、壁の中に隠れてしまったエルサの様子を見ようと、ジョジョが壁を開けて中を覗くと、彼女は、「5月7日」と言う。意味が分からないジョジョは、「何?」と訊く。「彼女が生れたのは7日だったの。1日じゃない」。ジョジョは、身分証を開いて見てみる(1枚目の写真)。「K大尉は、僕たちを助けてくれたんだ」〔前節で書いたように、他にも、誕生年、写真の撮影年、年齢が間違っている。なぜ、“日” だけ取り上げたのか? エルサが、誕生年を1928年と言っていれば、問題は何もなかった。台詞のミスか、脚本のミスか、身分証を作成した小道具のミスか?〕。ジョジョは、さらに、「お姉ちゃんが死んだことは誰も知らない。インガになれるよ。ママが帰ったら、全部話すからね。僕たち、友だちだろ」と言う。部屋に戻ったジョジョを、アドルフは、「完全に失敗じゃないか。どうなってる」と責める。「彼女は、悪い人には見えない」(2枚目の写真)。「私や党に対する君の忠誠心が疑わしくなった。それで、愛国者と言えるか?」。そこから、如何にもヒトラーらしい演説が始まる(3枚目の写真)。一段落すると、「分かりやすく言おう。しゃきっとして、すべきことをしろ。君は10歳だ。できていい年だ」。アドルフは、唾を吐き、ジョジョの座っているテーブルを蹴飛ばして出て行く。
  
  
  

次にジョジョが外出すると、外は真冬〔アドルフがずっと前に、1944年のことを「昨年」と言ってから(1945年1月~)、町や郊外は夏のように明るかったのに、急に雪が残っている。この映画は風刺コメディなので、時間軸が正確である必要はないが、アドルフのこの台詞をもっと遅らせて前節に入れておけば、このような矛盾は生じなかったと考えると残念だ〕。戦況は急減に悪化し、広場の入口には、バリケードや土嚢が積んである(1枚目の写真、残雪が見える)。ジョジョが街角でジャガイモを3~4個買い、誰もいないアーケードを歩き、昔自分が昔貼ったポスターを見ていると、広場の舗石に残った雪の上を青い蝶が飛んでいる。ジョジョは、蝶を追っていき、蝶が舗石にとまると、しゃがみ込んで蝶を観察する。蝶が飛んでいったので、満足そうに立ち上がり、ふと左を向くと、顔の前にハイヒールをはいた足がある(2枚目の写真)。ジョジョは、その特徴ある赤と白のハイヒールが母のものだと気付く〔赤字の反ナチの紙も 貼り付けてある〕。そして、上を見上げると、画面には映らないが、母がリンチで絞首刑にされている。ジョジョは、足にしがみ付いて泣き崩れる(3枚目の写真)。ジョジョは、抱き着くのを止めると、母の前に座ったまま長い時を過ごす〔姉は既に死に、父も恐らく死んでいるので、天涯孤独な孤児になってしまった〕
  
  
  

そのまま家に戻ったジョジョは、ナイフを手に持ち、インガの机に座っているエルサに向かって歩いて行く。ジョジョの異様な様子に気付いたエルサが立ち上がると、ジョジョは、胸の上部に向かってナイフを突き刺す(1枚目の写真、矢印はナイフ)〔先端が1センチほど刺さる〕。ジョジョは、そのままエルサから離れ、数歩進んだところで、床にうずくまって泣き出す。何が起きたか悟ったエルサが、ジョジョの横に座る(2枚目の写真)。夜になり、2人は窓辺にいる。夜空には、遠方の市街地が爆撃される光が瞬いている。エルサは、ジョジョに、「知ってた? あんたのお母さん、ほとんど何も話してくれなかった。友達と働いてることと、あんたのお父さんが関わってるとしか」と打ち明ける。「違うよ、パパは戦争で戦ってる。ママは、戦争が終わり次第帰ってくるって言ってた」。「お母さんは、理由があって、話したくなかったのよ」。「僕を嫌ってたからだ。ナチで、敵だったから」。「あんたをトラブルに巻き込みたくなかったのよ」。「もう、僕には何も残っていない。一人ぼっちだ」。それを聞いたエルサは、自分が、汽車に乗せられて収容所送りになる時、両親から如何に逃げ出したかを話す。そして、自分も一人ぼっちなのだと。ジョジョは、「自由になったら、最初に何するの?」と訊く。「踊るわ」。2人は、肩を寄せ合って窓の外を見続ける(3枚目の写真)。
  
  
  

ジョジョは、爆撃で破壊された地区を見に行く(1枚目の写真)。お腹が空いたので、ゴミ箱をあさるシーンもある。部屋に戻ったジョジョは、ネイサンの手紙をせっせと捏造する。手紙の最後に、「Liebe Elsa(エルサへ)」と書いているが(2枚目の写真)、「Lieve」は英語の「Love」。これが、他人名義の手紙に託したジョジョの本心だ。というのは、手紙の最後に、ハートに矢が刺さった絵を、念入りに描いているから。そして、こうして書いた手紙を、エルサに読んで聞かせる(3枚目の写真)〔映像だけで内容は分からない〕
  
  
  

ジョジョがリヤカーを引きずって歩いていると、軍服姿のヨーキーと出会う。ヨーキーが、「ママは気の毒だったね」と言うので、軍隊にいながら、何らかのルートで知ったことになる。ジョジョが、戦争について訊くと、「ロシア人がやって来る。アメリカ人も」(1枚目の写真)「それに、イギリスや中国、アフリカにインド、全世界がやって来る」と言い、手に持っていた弾薬入りの鞄が重いので、「手伝ってよ」と言って、リヤカーに乗せる。「僕たち、どうなるんだ?」。「悲惨だよ。友達は日本人しかいない。ここだけの話、アーリア人種には見えないけど」。ジョジョは、ヨーキーに、ユダヤの少女と一緒にいて、「今じゃ、簡単に言うと ガールフレンドなんだ」と話す。「ガールフレンドだって? 凄いじゃないか」。2人は仲良く話しながら、リヤカーを牽いて行く。「だけど、ユダヤ人なんだぞ」(2枚目の写真)。「そんなことより、心配事は山ほどある。どこか近くにロシア人がいて、奴らは最悪なんだ。聞いた話じゃ、赤ちゃんを食べたり、犬とセックスするんだって。それって最悪だろ?」。「犬とセックス?」。「そうさ。イギリス人もだよ。僕らが食べられたり、犬がやられる前に止めないと。もうメチャメチャだよ。ヒトラーは死んじゃって、僕らだけで何とかしないと」〔ヒトラーの自殺は4月30日、ドイツの降伏は5月8日なので、このシーンは5月の第一週〕。ヨーキーの言葉を聞いたジョジョはびっくりする。「聞いてないの? 死んだんだ。あきらめて、頭を吹き飛ばした。あいつ、いろんなことを隠してたんだ。見えないところで、すごく悪いこともしてた」。その時、前方で爆発が起き戦車が現れたので、2人は必死になって逃げる(3枚目の写真)。
  
  
  

その先にいたのが、ユングフォルクの女性教官。ユングフォルクの少年の1人に手榴弾を渡し、「あそこにアメリカ兵が見えるでしょ。ハグしてらっしゃい」と指示し、ピンを引き抜き、「走って!」と建物の陰から前方に押し出す。実際にはなかったであろう残酷な場面。ヨーキーに対してはピストルを渡し、「ドイツ人以外、誰でもいいから撃ちなさい」と言って、送り出す。ジョジョには、死んだ若い軍人の軍服を剥ぎ取り、「これを着てれば、撃たれないわ」と言って着せる(1枚目の写真、矢印は軍服)。教官は、機関銃を乱射しながら、陰から出て行き、その後、大きな爆発が起きる。その先は、象徴的なシーン。茫然として突っ立ったジョジョの横を、ユングフォルクの少年達が手榴弾を持って駆け抜けていく(2枚目の写真、矢印はジョジョ)。そして、極めつきは、ど派手な軍服を着たK大尉と、蓄音機のラッパを手にした下士官のコンビの突撃(3枚目の写真)。戦争の愚かさの象徴だ。
  
  
  

ジョジョは、戦闘が収まるまで建物の地下に隠れる。そして、爆発音がしなくなってから外に這い出す。残骸の山となった市街地で死体を調べているのはアメリカ兵。ジョジョは、体が小さいので見過ごされるが、そのうち一人の兵士に見つかり、軍服を着ていたせいで、生き残ったドイツ兵を収容している場所に連れていかれる。そこにいたのは、K大尉。ジョジョは、エルサを助けてくれた人なので、「何が起きてるの?」と言って、横に座る(1枚目の写真)。大尉は「何もかも終わった。怖いか? 怖がるな。俺を見ろ」と言うと、「ロージーは気の毒だったな、いい人だったのに」と詫びるように言う。ジョジョは頷く。大尉がジョジョの軍帽を取ると、ジョジョは悲しくなって泣き始める(2枚目の写真)。大尉は「ホントにいい人だった」と慰める。ジョジョは大尉に抱きつく。大尉は「あの本は実に傑作だったな。笑って悪かった。とても創造的だ」と謝ると、ジョジョを立たせ、「元気そうだな。もう大丈夫だ。じゃあ、家に帰って、お姉さんの面倒を見ろよ」と言う。そして、軍服を瞬時に剥ぎ取ると、まるで赤の他人のように、「失せろ、ユダヤ人!」と言って突き飛ばす。K大尉のお陰でジョジョはユダヤ人と目され、ドイツ人捕虜の囲いから出ることができた〔K大尉ほど好人物のドイツ将校は、映画で観たことがない〕
  
  
  

ジョジョは、家に戻る途中で 生き残ったヨーキーと出会い抱き合う。ヨーキーは、これから、元ナチにとっては大変だと言った後で、「戦争が終わったんだから、君のガールフレンドは自由になれるな。どこにでも行ける」と付け加える。この言葉で、ジョジョは、最愛の人を失う危機に気付き、ヨーキーを放っておいて 急いで家に戻る。ジョジョは、玄関の前で、どうしようかとしばし考える(1枚目の写真)。決断したジョジョは、エルサの隠れている壁の前まで行くと、ノックして「帰ったよ」と言う(2枚目の写真)。「外はどうなってるの? 出て行ける?」。「ダメ。出られない」。「なぜ? どっちが勝ったの?」。「僕たち。ドイツが勝った。ごめんね」(3枚目の写真)。
  
  
  

大きな嘘を付いたあと、ジョジョは、インガの机の上に置いてある画帳を開く(1枚目の写真)。最後にあったのは、兎を鳥籠に閉じ込めた絵(2枚目の写真)。兎はエルサだ。この絵を見たジョジョは、自分の行った行為を反省する。そして、ネイサンからの新しい手紙が来たことにして、壁の前に行き、白紙の紙を読み上げる。「愛するエルサ、今が君にとって大変な時期であることは承知してる。君が、あきらめかけていることも知ってる。だが、今こそ、実行する時だ。私と、君の良き友ジョジョは、君を逃がすプランを考案した。だから、彼の言うことを聞いて欲しい。彼は、君をそこから出す手助けをしてくれる。そしたら、君はパリに来て私と一緒に暮らせる。ジョジョを疑うな。彼は味方だ。パリで会おう。ネイサン」。
  
  
  

すると、壁が開き、エルサが、「彼は死んだの」と言う。「何て?」。「ネイサンよ。昨年、死んだの。結核で」。「そう… 変だね… これ、誰が書いたの?」。「ありがとう、ジョジョ。あんたは、とても良くしてくれた」。「あのね、僕… 実は… 君が好きなんだ」(1枚目の写真)「僕は 弟みたいな存在だろうけど、それでいいんだ。それに、君は年上すぎる。でも… ここって暑いな」。ジョジョを助けようと、エルサは「私も好きよ」と口を挟む。「弟として?」。「そうよ、弟として」。「いい? 僕と偽(にせ)のネイサンは、君を逃がす方法を見つけたんだ。弟なら信じるよね?」。「ええ」。「じゃあ、荷物をまとめて。ここから出よう」。自分の部屋に行き、鏡の前に立ったジョジョは、自分の顔を見ながら、「ジョジョ・ベッツラー、10歳半。今日は、できるところまでやればいい」と言う(2枚目の写真)。そこに、頭に銃痕と出血の跡を残したアドルフが現れ、ジョジョの裏切りをなじり、「うまくいくはずがない。お前は、奴には幼な過ぎるし、醜い。すぐに捨てられる」と罵った上で、忠誠を誓えと迫ったため、怒ったジョジョによる、窓の外に蹴飛ばされる(3枚目の写真)。
  
  
  

玄関に立った2人。ジョジョは、エルサの靴紐を結ぶ(1枚目の写真、矢印)〔ジョジョは 靴紐すら結べないことが強調されてきたので、この行為は、ジョジョが成長したことを象徴している〕。結び終わると、「準備はいい?」と訊く。「ええ」。ジョジョは、鍵を開ける。「外は危険なの?」。「すごく」。そう言って、一気にドアを開く。エルサが一歩外に踏み出ると、そこには、何事もなかったような通りに、普通に人々が歩いていた。エルサは前に踏み出し、後から出てきたジョジョがドアを閉める。エルサの前を、星条旗を掲げたジープがアメリカ兵を乗せて通り過ぎて行く(2枚目の写真)。ドイツが勝ったというジョジョの最初の話が嘘だったと分かったエルサは、ドアの所にきまり悪げに立っているジョジョの前まで引き返す。ジョジョは、一歩前に出て、「やったね」と言うと、エルサはジョジョの頬をぶつ(3枚目の写真)。ジョジョは、「まあ、当然だよね」と言うが、2人の間に気まずい空気が流れる。
  
  
  

ジョジョは、「僕たち、今から どうする?」と訊く。最初は冷たい顔でジョジョを見ていたエルサは、ジョジョの嘘は愛の印だと納得し、体を揺らし始める。以前、空襲を見ながら、ジョジョが「自由になったら、最初に何するの?」と訊いた時、エルサは「踊るわ」と答えた。その言葉通り、揺れる体はリズムを取りはじめ、笑顔が出て、ダンスになっていく(1・2枚目の写真)。背後に流れる曲は、デヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』のドイツ語バージョン。2人は、仲の良い孤児の姉弟として、将来を共にすることを暗示しつつ映画は終わる。
  
  

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